長期間使われる事もなく、状態も分からないまま倉庫の片隅に眠っていた船外機…「マーキュリー シープロ15」(MERCURY SEA PRO15)の点検整備を行いました。
ガソリンエンジンの3要素を軸に、再使用に向けた整備を実施です!
コンプレッション測定
良い圧縮が得られているか? 先ずは、その確認から…。
機械的な要となるシリンダー、ピストン、及びピストンリングの状態は大丈夫でしょうか?
そのエンジンのピストン周りを見るって、それなりに努力が必要です。(まぁ 面倒な作業と言う事です…。)
つまり、簡単ではないです…。 完全分解が必要になるからです。
その機械的ダメージチェックの作業をヘルプしてくれるのが、コンプレッションゲージを使用した圧縮圧力の測定となります。
今回、再使用を目的として全体整備を行う予定ですが、先ずはその重要な部分の確認からとなります。
軸となる機械部分がダメージを受けていたら元もこうもありませんからね…。

どれだけの数値が必要なのか?
このデータは、サービスマニュアルには記載されておりません。
経験値のみです!(すみませんが、数値表示はお見せ出来ません)
スパークチェック
電気系統(点火系)が破損していないか…? この段階では、スパークプラグから火花が放たれているか目視確認迄です。
今回のマーキュリー船外機シープロ15の、大まかな電気の流れは以下の通りです。
「フライホイールマグネット・ステータコイル・トリガーコイル」→「スイッチボックス(CDI)」→「イグニッションコイル」→「ハイテンションコード・プラグキャップ」→「スパークプラグ」です。
仮に火花が飛んでいても、上記部品の劣化により不具合が起きる事は多々有ります。
つまり、良い火花に到達していないと言う事です。

このエンジンですが、番手の異なったスパークプラグが取り付けられておりました。
勿論、正しい番手の、新品のスパークプラグに入替えました。(右側)
頻繁に見かけます… この様に間違った番手のスパークプラグが取り付けられているケース…。
装着出来ればOKの安易な考え方は良くありませんよね。
熱価が異なれば性能に影響は出ますし、ギャップ、抵抗入りか否か、リーチは? 等々が関係してきますので、メーカー指定の正しいスパークプラグ装着が基本です。
レース用等にチューニングされたエンジンは別ですよ! でも言い換えれば、そのチューニングに適したスパークプラグを選択しました! なのです…。
キャブレターオーバーホール(分解清掃)
そのガソリンエンジンの燃料供給方式がキャブレターだとしたら、今一つ調子が悪い… だとか、 長期間未使用… 等のケースでは、状況にもよりますが、先ずはキャブレターのオーバーホールから始める事が多いです。
何故ならば、ガソリンエンジンを正しく動かく為の大きな要素の一つとして良い混合気(燃料)をシリンダーに送り込む事が重要だからです。
お客様の「エンジンが調子悪いのですが…」に、対する私の口癖 → ” キャブですね! ” (笑)
まぁ その位重要な構成部品ですので…。

真ん中に見えるシルバーの部品が「キャプレター(気化器)」です。
常に付きまとう、キャブレターの分解清掃(オーバーホール)は、キャブレターの宿命ですね!

キャブレターのオーバーホールを実施。
極力、構成部品を分解して清掃をします。

このキャブレターは比較的綺麗な方でした。
しかし、徹底的に分解清掃を行います。

燃料フィルターの底に多量のゴミが溜まっております。
これは燃料ホースの内部が剥離した物です。

キャブレタークリーナー等のケミカル剤を使用し、一つ一つの部品を丁寧に洗浄します。

フィルター、ホース内部、全てを確実に洗浄します。

キャブレターのオーバーホールは、仕組み、原理を理解しながら行う必要があります。
その結果が、確実な作業に繋がります。
安易に触った、間違ったキャブレターのオーバーホールを多々見かけます。
注意が必要ですね。

こちらはキャブレターの先に有るリードバルブ。
インテークですね。
混合気はこのバルブを通過して、シンダー内部へ送り込まれます。
折角キャブレターを外しているので、リードバルブ破損の有無をチェックします。
ロワーユニットに関する点検整備
ロワーユニットに組み込まれているインペラ(ウォーターポンプ)交換、ギアオイル交換等のメンテナンスは、多くのユーザーの方々にも認知されている、一般的な整備項目かと思います。
他には、地味な作業とはなりますが、プロペラの脱着による整備も重要ですのでお忘れなく…。

船外機本体よりロワーユニットを取り外し、専用のスタンドにセットします。
この様な機材が有ると、丁寧で綺麗な作業がやり易くなりますね。

インペラのケース(カバー)です。
この中にインペラが有ります。
ここは常に水にさらされている箇所で、使用環境によっては、とても汚れる部分です。

窮屈なスペースに閉じ込められているゴム製のインペラ… 曲がって型が付いております。
まぁ 普通です…。

経年劣化によるひび割れが見られます。
インペラ形状(寸法)は、機種によってまちまちです。
低馬力では、肉薄で弱い物も有りますので、頻繁にチェック(交換)を行う事を推奨します。

フェイスプレート下のガスケットです。
勿論、同時に交換をします。

左側: 旧インペラ
右側: 新品インペラ
インペラはドライブシャフトに取り付けられております。つまり、減速なしでエンジン回転数とイーコルで回っております。そして経年劣化を起こしやすいゴム製品… その役目はエンジンの冷却… もう、お分かりですよね! とても重要な、定期交換部品です。
今迄、何機も見ました… インペラ交換を怠った為のエンジン損傷を! 焼き付きですね…。

新品のインペラが組み込まれました。

合わせてケースも綺麗に洗浄です。

この様なスタンドが有ると、ストレスなく作業が行えます。

少々水が混入しておりますので、定期的なギアオイル交換と共に、経過観察を行います。

プロペラを外し、釣り糸等の絡みをチェックします。
同時にプロペラシャフトの洗浄と、グリスアップを行います。

各部スイベル等の摺動部分に、グリスガンにてグリスアップを行います。
補足的なチェック
このモデルのマーキュリー船外機の場合、チェック用冷却水の放出ポイントがサーモスタット部分の為、比較的その水温が高目です。
とは言え、ちょっと気になりますので、念の為にサーモスタッドの動作確認を行いました。

サービスデータによると、このサーモスタッドのオープン温度(水温)は、49℃。
水温計を使い、沸かしたお湯と水を混ぜ合わせながら49℃を再現します。

49℃にてサーモスタッドが開きました。
問題無しです。
タンクテストによるチェック
一通りの整備が終わったら、エンジンを始動させて確認を行います。
その際には、大きなタンク(水槽)にたっぷり水を張り、確実に冷却水を回す事が重要です。
排気圧力もしっかりかけたいですね。

エンジンがかかりました!
が・・・! 問題発生!

エンジンベース(黄色のマークの部分)から冷却水がリーク!(泣)
不具合発覚に対する修理
まぁ この辺は一筋縄ではいかないものです。
ここで不具合を発見出来るかが重要なポイントですね!

なかなか順調に事は進みませんね…。
面倒ですが、パワーヘッドを取り外す事になってしまいました(汗)
でもやらないと…。

もう分かっておりました…
ベースガスケットの破損は…。

ご覧の通りですよ! 切れております…(泣)
(黄色枠内)

この部分から冷却水が漏れておりました。

左側: 破損した旧ガスケット
右側: 新品ガスケット
マーキュリー船外機の、この世代の、この馬力(9.9, 10, 15馬力)に使用されているガスケットは比較的、弱い傾向にあると感じております。
過去には、ウォータージャケット、エキゾーストカバー等でも同じ様な症状が度々発生しております。

折角パワーヘッドを外して、フルオープン状態のアンダーカウル…。
ついつい、キレイ キレイにしたくなってしまいます(笑)

綺麗になったエンジンベースに、新品のガスケットが置かれました。
とても気持ち良いですね!

パワーヘッドをひっくり返し、エンジンベース部分を キレイ キレイ にします。
当然の作業です(笑)

再び、パワーヘッドが載りました!
先が見えてきましたね…。
サービスデータに基づく調整
サービスマニュアルに記載されているデータに基づき、各部の調整を行います。

パイロットスクリュー、戻し回転規定値。

アイドリング、規定回転数。

点火時期(低速側)、規定値。

規定値通りに、パイロットスクリューをセットします。

デジタルタコメーターを接続して確認。
840rpm… ちょっと、回転が高目ですね。

タコメーターと、にらめっこをしながらアイドリング調整を行います。

タイミングライトを使用し、点火時期の確認を行います。
低速側の点火時期が、4° 進角しておりました。
きっと、調整法を理解されていない方が、触ってはいけない部分のボルトを回してしまったと思われます。

点火時期を規定値に戻します。
あっ ここ! いじらない様に!(笑)
仕上がり
ガソリンエンジンの3要素を軸に、マリンエンジン(船外機)特有部分の点検整備を行いながら、中古船外機が仕上げられます。

手間暇をかけ、一通りのチェックが終了し、整備済みの船外機が仕上がりました。

このマーキュリー船外機の「シープロ」シリーズ… 個人的には好きですね!
ヤマハ船外機の「VMAX jr.」シリーズも大好きな船外機です。

今や希少なライトウェイトの「2ストローク船外機」
キッチリ整備を行えば、まだまだ使える物が世の中には有ると思います。
お困り方は、是非ともご相談下さい。
最後に…
当店の「整備済み中古船外機」には、個人売買の船外機には無いメリットが有ると思っております。
しかし… そこは年数が経過した機械です… 必ず壊れます!
その時に備えて、定期点検整備、及び修理を行えるマリン店を「機械のかかりつけ医」として持つ事が重要なのではないでしょうか?