シフトロッド交換 & 折れボルト修正

シフトロッド エンジン

1989年(35年前)に製造された、ヤマハ2ストローク 60馬力船外機のシフトロッドを交換しました。
事の発端は「シフトが調子悪い…」「自分で調整をしたが上手くいかない…」
との事で、当店にて修理を承る事となりました。


修理対象の船外機は、1989年製造の「ヤマハ 60FETO」の、2ストローク船外機です。
この船外機が搭載されている艇は、「ヤマハ スターエース」17ft のモーターボート。とても懐かしく思えました(笑)
そして何と… 艇体、船外機共に当時のままで、現在も諏訪湖に水上係留されているとの事でした。
しかし… その長きに渡る水上係留が、今回の問題を引き起こしたのです。
とは言え、35年間の水上係留でありながら、この程度で済んでいるのは、淡水使用である事に間違いはないでしょう!


汚れた艇体と船外機のロワーが、長期係留の証しです。
今回問題となった「シフトロッド」も、何年もの間、水中と空中間を行ったり来たり…
錆びやすい過酷な環境下です。


こちらは、船外機本体から外したロワーユニット。
黄色の丸の部分にスプラインが有り、上から長く伸びるシフトロッドと、ここで連結されます。
それにしても、かなり汚れております。


こちらがシフトロッドで、パワーヘッド部分から下に向けて取り付けられております。
前述のロワーユニットのスプラインと繋がる、ロッド側と言う事になります。
キーとなるのは、黄色の丸の部分です。


今回のトラブルは、細くなってしまったシフトロッドに有ります。
黄色の丸で示している部分です。
説明は後程…。


厄介な事に、このシフトロッドですが、パワーヘッドを外さないと交換が出来ないのです(汗)
何となく大掛かりですが、やるしかありませんね!


重たいパワーヘッド…
クレーンで吊りながら外します。


パワーヘッドが取り外された船外機本体です。


これでようやくシフトロッドにアクセスする事が可能になります。


画面上: 取り外された、元々のシフトロッド
画面下: 交換用に注文した、新しいシフトロッド

画面上(旧シフトロッド)の、黄色丸部分のロッドが細くなっている事が分かりますよね。
これが今回のトラブルの原因だったのです!
何故⁉… 後程ご説明しますので、少々お待ち下さい(笑)


旧シフトロッドです。
ロッドの径は、目測で6㎜程度。
そのロッドの一部分が、ご覧の様に細くなっております。


交換用に取り寄せた新品のシフトロッドです。


旧シフトロッドの材質は鉄だと思われます。


対策部品なのでしょうか?
新たなシフトロッドの材質はステンレスだと思われます。


このくびれ… 最細部は目測で3㎜以下。
スプライン状のメス側の筒に、6㎜程の丸棒を取り付けた構造かと思われます。
その接続部分がウィークポイントとなり、錆び発生と共に、長い年月をかけて細くなっていたのでは? と、推測します。


ステンレス製になったと思われるこのシフトロッドですが、ろう付け等による接続なのではないでしょうか?
そんな痕跡ですね?


旧シフトロッドを、ロワーユニット側のロッドと接続させた画像です。
この様な形で接続されておりますが、実際には船外機本体のアッパーケーシング内部に収まっているので見えません。


この上下のロッドは、それぞれがスプライン状になっており、決まった位置に接続されます。
右回り、左回りと、ロッドを回転させる事によって、ギアケース内部のドッククラッチの位置を、前進側、及び後進側へスライドさせる仕組みとなっております。
非常にシンプルですが、確実に決まった位置にスプラインを合わす必要があります。


シフトロッドにアクセスする為に、一旦、取り外していたパワーヘッドと、合わせてインペラ交換等の整備を行っていた、ロワーユニットです。
新しいシフトロッドの取り付け準備が終わった為、この後、再度組み込みです。


折角 パワーヘッドを外し、オープン状態になったアンダーカウル… 35年間の油汚れをキレイキレイにしました(笑)
気持ち良いですね!


いよいよ パワーヘッドが載ります。
勿論、クレーンを使用です。


組みあがりました!
冷却水を回してエンジン始動!
一連のチェックとなります。


問題となっていたシフト不良ですが、キッチリ直りました。
やはり細くなっていたシフトロッドに問題が有った様です。
でも何故? シフトロッドが細くなってしまっただけでダメなのですか?


シフトロッドが細くなっていた事に問題の原因有り! 何故?
シフトロッドがやせ細ったとしても、別に問題が無いのでは? まぁ そう考えますよね⁉ 普通は…。
でも、実はそこに問題が有ったのです! 仕組的に…。
先にも述べた様に、シフトに関する構造はシンプルです。ですが、それぞれの部品の位置関係には当然役目を果たすべき、各々の「居場所」が存在しております。
今回は、その「居場所」に正しくない部分が存在しておりました。
一見、何も問題が無さそうなシフトロッド… 一部が細くなっているシフトロッド…
その細くなっている部分がねじれていた…。 と、考えました。 まぁ そうでしょう!


解説: シフトチェンジは、リモコンレバーを前後に倒しながら行います。前進… 後進… ですね。
その際シフトロッドは、時計回り… 反時計回り… と、動かされております。
そして、その動作中に多少なりともロッドに対して負荷がかかります。
今回の場合、問題の細くなった部分が、その負荷に耐えられずねじれたのです。
つまり、そのねじれによって、正しいスプラインの位置関係が崩れた訳です。
と、判断いたしました。


折れボルト修正
上架する機会が少ない水上係留艇… 折角なので合わせてインペラ交換も実施いたしました。
しかし…
インペラに到達する前段階でボルトが折れました(汗)
折れたボルトの修正方法には、その箇所によって様々な手法が有ります。
さて一体、今回は…?


淡水とは言え、長期水上係留の船外機… やはりと言いますか… まぁ 折れますね… ボルト!
インペラケースを止めている4本のボルトの内、1本が折れました。よくある話しです。
当然のごとく、ゴム製のインペラはアウトでした。


特に細い訳でもない、8㎜のボルトが折れました。
想定済みですが…
ちなみに、工具を当てると、「これ折れるな!」って、分かりますよ(笑)


取り残された折れたボルト。
さて、どの手法にて処理をしようかな?


綺麗な摘出は不可でした。
ヘリサートを挿入するには周囲がやや肉薄…。
ケースを止めているボルトには、高トルク、且つ、精度の高い均等なトルクが特に必要とされない箇所だったので、今回は、完全固着した8㎜のボルトに対し、6㎜のタップを立てて処理する方法を選択しました。


左側:旧インペラ。ダメです! 破損しております。
右側:新品のインペラです。


新品のインペラが、新品のガスケットと共に装着されました。


定期点検整備は重要です! 結果的にボルトの折れ込み回避にも繋がります。
今回は、インペラケースを止めているボルトに限定した話しにはなりますが、仮に定期的にインペラ交換を行っていたらどうでしょうか? どの程度定期的かにもよりますが、今回折れた部分のボルトは必ず脱着の作業が伴ってきます。そして、その作業者にもよりますが、その外されたボルトを装着する際にはグリスが塗布されると思います。多くのメカニックはその作業を行っているはずです。私は、必ず行います。
経験上の話しですが、今回の8㎜よりも細いサイズのボルトでも、グリスが塗布されていれば、たとえ海水使用であってもスムーズに抜ける事がほとんどです。
ボルト折れによる摘出、及び修正作業はそれなりに大変なので、その作業だけでも工賃が発生してしまいます。無駄な出費を抑える為にも、定期点検整備を実施しましょう!